優秀賞「ポイントで広げる救命の輪」119番通報を受ける指令室で、私は何度もこの質問をしてきました。ただ泣き崩れるしかない人の姿があります。そして、その隣でまた一つ命が消えていく。により、救急車の現場到着平均時間が、熊本県全体の平均時間より約50秒長くかかるという課題があります。く下がるため、この50秒は決して小さくなく、生死を分ける鍵となります。そう」と救命講習の受講をためらう方も少なくありません。大切な人が倒れた時、助ける準備はできていますか。愛する人を守るためのものです。になるのです。ら救命講習を受講してくれるのだろうかと考えました。てもらう方法として〝ポイント制度〟を思いつきました。きるポイントが付与される仕組みです。人は「役立つから学ぶ」だけでなく「得するから参加する」という動機でも行動します。その一歩が命を守る力を身につけることにつながるなら、入口はどちらでも構わないのです。優秀賞「もう一つの使命」「救う者として使命を果たさなければならない。」私たち消防職員には「命を救う」という重要な使命があります。しかし同時に、「救えない命」と向き合わなければいけません。目の前で大切な人を失った家族が、深い悲しみの淵に沈むとき、私たちに何ができるのか。その問いに対し、私は「グリーフケア」という視点から向き合う必要があると感じています。私たち消防職員にとって「グリーフケア」は聞き馴染みのない言葉です。「グリーフ」とは、大切な人を失った際に感じる深い悲しみのこと、「ケア」とは、寄り添い支えること。その二つを掛け合わせた「グリーフケア」は、ご遺族の深い悲しみに寄り添い、前を向こうとするその歩みを援助する行為なのです。主に終末期医療や福祉分野で使われる「グリーフケア」ですが、急性期医療を担う私たちこそ「グリーフケア」という「もう一つの使命」を果たさなければいけないのです。しかし、現状はどうでしょう。救急現場においては、傷病者の救命処置に全力を尽くす中で、救急搬送後の家族への配慮が疎かになっていないでしょうか。私自身、心肺停止の傷病者を病院へ搬送した際、必死な活動の末に救命できなかった経験があります。病院の待合室では家族が声も出さずただ肩を震わせていました。そんな家族が私に言いました。「『行ってらっしゃい。』と声をかけたのが最後でした。」そういって泣き崩れた家族に対し、声をかけようとしましたが、何も言葉が出てきませんでした。静寂の中、私は小さく頭を下げその場を去りました。無言のまま立ち去る私の姿を見て、家族はどう思うのか。私の胸には無力感だけが九州支部代表 「胸骨圧迫と人工呼吸はできますか?」しかし返ってくる答えは「できません・・・」心肺停止の現場に駆け付けると、そこには、私が勤務する天草地域は、広い地理的条件心肺蘇生が1分遅れるごとに生存率が大きしかしながら、「自分にはできない」「難し皆さんに問いかけます。自分の家族、友人、講習を受けることは、自分のためではなく、たった数時間の学びが、誰かの命を守る力みんな分かっているはずなのに、どうしたそこで私は、救命講習をもっと身近に感じ受講すると買い物や公共サービスで利用で関東支部代表 関口 この発想をさらに広げる中で、熊本健康アプリを活用した〝天草健康ポイント事業〟に戸田 開斗 結び付けられるのではないかと考えました。このアプリは、県民の健康づくりを目的に熊本県内の市町村が共同で運営しており、ポイントが貯まると、ポイントに応じた特典を受けることができます。このアプリとの連携を始めた結果、受講者は昨年同時期の約6倍になりました。私はこの取り組みを通して感じたことがあります。救命の輪は、知識や技術の伝達だけでなく、参加のきっかけをどう作るかにかかっているということです。最初の動機が〝ポイント獲得〟であったとしても、講習を受けた市民は実技を通して「自分もできる」という自信にかわり、「いざという時は必ず行動したい」と口にされます。その変化こそが、私たちが目指す真の成果なのです。命を救う行動に〝最初の一歩〟を踏み出してもらうための仕掛けとして、このポイント付与は大きな力を持っています。そして、その一歩が積み重なることで、地域全体に救命の輪が広がっていきます。私たち消防職員にできるのは、市民に寄り添い、学びやすい場を提供し、その背中を押し続けることです。私は信じています。小さなポイントが、大きな命の重みへとつながり、やがて確かな救命の輪を築いていくことを。どうか皆さん、〝ポイントで広げる救命の輪〟を熊本から全国へと繋げていきましょう!きっと、皆さんの心の中では、大切な人を守る準備ができているはずですから・・・残り続けました。多くの消防職員が一度はこの経験をし、や雄大 り場のない思いを感じたことがあるはずです。そこで私は、救急隊としてできる新たなアプローチ「救急隊版グリーフケア」を考案し実践しました。それは病院へ搬送後、次の出動までの限られた時間を家族に寄り添うための時間とする取り組みです。まずは服装を整え、脱帽し、家族と目線を合わせ、深く一礼します。そして、落ち着いた声で伝えます。「お辛い中、我々にご協力くださり、ありがとうございました。」その一言をきっかけに、家族のこみ上げる言葉に傾聴し、共感します。言葉にならない想いを抱える家族には、無言を恐れず寄り添い続けました。すると、家族の表情がわずかに和らぎ始めたように感じました。さらには、遅れて駆けつけた別の家族に対し、自ら声をかけ、寄り添う姿があったのです。この出来事は、救急隊の言動が、家族の「これから」に変化をもたらし、「救急隊版グリーフケア」の実用性を確立させました。そして所属で取り入れた結果、どんな出動でも、救急隊が家族に寄り添う時間を意識的に確保し、大切にする行動が現場に根付いていったのです。私たちの使命は命を救うこと。しかし、どんなに手を尽くしても、救えない命がある。そんな救えなかった命のすぐそばには、これからを生きる家族がいる。その家族に寄り添うグリーフケアは、私たちの「もう一つの使命」です。たとえ、次の出動までのわずかな時間でも、家族の人生に寄り添える瞬間は必ずある。その一瞬が、残された家族の「これから」を支える力となり、心に「生きる力」を与えるのです。救えなかった命のその先に、まだ「救える心」がある。「あなたは一人ではありません。」全国消防長会会報令和8年6月(第915号)-27-
元のページ ../index.html#27