全国消防長会の平成29年度事業計画をお知らせします
わが国の自治体消防は、地域に密着した防災機関として、社会構造の変化等に的確に対応しながら、消防防災体制の充実・強化を図ることにより、地域住民の安全・安心の確保に大きな役割を果たすとともに、国際貢献にも寄与するなど大きな発展を遂げてきた。
そのようななか、昨年度においては、地震、集中豪雨、台風などの自然災害により人的被害や住家被害が各地で発生し、特に4月の「平成28年熊本地震」、8月以降に相次いで上陸した台風、10月に発生した鳥取県中部の地震などでは、周辺地域に甚大な被害が生じた。また、12月に新潟県糸魚川市で発生した火災は、強風により市街地の広範囲に延焼拡大し、地震時を除く市街地火災としては、昭和51年の酒田市大火以来の大規模な災害となった。さらには、本年2月に埼玉県三芳町で発生した大規模倉庫の火災は、消火に困難を極め延焼拡大し、鎮火まで長期間を要するものとなった。
防災・減災に対する国民の関心が高まるなか、我々消防機関は、地震・風水害・火山噴火などの自然災害、危険物火災などの特殊な災害や事故、さらには、2020年に開催される東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会及びその前年に開催されるラグビーワールドカップ2019といった国際的な大規模行事を控えたなかでのテロ災害など、あらゆる事態への対応とその備えが強く求められるようになっている。
特に、今後発生が危惧される南海トラフ地震、首都直下地震等の大規模災害発生時に迅速かつ的確な対応が図れるよう、地域の総合的な防災力の強化に国を挙げて取り組んでいるところであり、消防団、自主防災組織等の関係機関・団体と連携を図りながら、震災等大規模災害の対策を早急に推進する必要がある。
消防の広域的な対応については、大規模災害や特殊災害等に備えるため、消防庁において緊急消防援助隊登録数を平成30年度末までに6,000隊規模に増隊することを目指している。全国消防長会としても、緊急消防援助隊の活動体制の強化等に向けた財政支援について引き続き国に対し要望を続けていくとともに、昨今の大規模災害等に対応するため実災害に即した広域的な連携訓練に取り組み、消防広域応援体制の充実・強化を図る必要がある。
消防の広域化については、規模目標にとらわれず地域の実情を考慮することを基本として推進が図れるよう、必要に応じて消防庁等の関係機関に対して支援・協力の要請を行うとともに、適時・適切な情報提供を行うなど、積極的な取り組みが必要となる。また、各地域の多様な消防業務のニーズに対応するため、消防本部間での共同運用による消防指令業務など業務分野ごとの柔軟な連携・協力を推進していく必要がある。
消防救急無線については、デジタル化に伴う運用面に係る諸課題への対応を行っていくとともに、広域化・共同化及び消防指令業務の共同運用、さらには消防防災分野におけるICT技術やG空間情報の利活用の推進について検討を進める必要がある。
近年、出動件数が大幅に増加している救急については、消防と医療の連携による救急搬送体制の強化、ICT技術を活用した救急業務の高度化への対応、市民等への応急手当や救急安心センター事業(♯7119)の普及促進など、救急業務の更なる充実を推進する必要がある。
住宅火災については、火災による死者のうち65歳以上の高齢者の占める割合が依然として高い状況にある。今後、一層の高齢化の進展に伴い住宅火災による死者数の更なる増加が懸念されることから、住宅用火災警報器の設置率の向上と併せて、設置の義務化から10年が経過したことを踏まえ、住宅用火災警報器の維持管理等を含めた総合的な住宅防火対策の推進が必要である。
また、簡易宿泊所や飲食店などに対する消防法令違反等の是正の徹底、さらに国が進める「民泊サービス」等の新たな法整備についての対応等、ソフト・ハード両面にわたる防火・防災安全対策が強く求められている。
危険物施設における火災・流出事故の発生件数については、依然として高い水準にあるため、今後も関係事業者への指導の徹底など事故防止対策をさらに推進する必要がある。
今後も人口減少や高齢化の進展等社会の諸情勢を捉えながら、消防・救急需要に的確に対応するため、あらゆる消防力の基礎となる消防職員の確保や消防装備の充実、消防庁舎等の整備に適切かつ積極的に取り組んでいく必要がある。
住民の安全・安心の確保を担う消防職員の処遇については、消防職員委員会制度の充実を含め、勤務条件の改善、勤務環境の更なる向上を図るとともに、職場におけるハラスメント防止対策に組織を挙げて取り組む必要がある。
また、災害現場や訓練等における消防職員の受傷事故を防止するため、安全管理マニュアルの徹底など組織を挙げての安全管理対策の更なる推進が必要である。
さらに、地域住民のニーズの多様化に対応し、更なる消防サービスの向上、消防組織の活性化を図るためには、女性消防吏員を増加させ、生き生きと職務に従事できる職場環境づくりをソフト・ハード両面から支援し、消防の分野における女性の活躍を推進していく必要がある。
本年度自治体消防制度70周年を迎えるにあたり、記念事業を実施又は支援するとともに、消防防災行政が直面する諸課題に対し、地域住民が安心して暮らせる災害に強い安全なまちづくりの実現に向け、消防活動能力の向上をはじめ消防防災体制の充実・強化を図るため、全国消防長会は、次に掲げる項目を重点として事業を推進するものとする。
一、震災等大規模災害対策の推進
一、消防広域応援体制の充実・強化
一、消防の広域化への対応
一、消防救急無線の広域化・共同化及び消防指令業務の共同運用への対応
一、救急搬送体制の強化、救急業務高度化への対応及び市民等への応急手当の普及促進
一、防火対象物等の防火・防災安全対策の推進
一、危険物施設の事故防止対策の推進
一、消防・救急需要に的確に対応した消防職員の確保及び消防装備等の充実
一、消防職員の処遇改善と安全管理対策の更なる推進及び女性の活躍推進
項目 | 事 業 内 容 |
---|---|
1 総会等会議の運営等に関すること |
(1) 総会等の運営 全国消防長会の意思、方針を決定するため、以下の会議を開催する。 ・総会等(5月23日、24日) ・役員会(10月26日) ・常任理事会(総会時、役員会時、2月上旬) なお、緊急事案等が生じた場合は、必要に応じ臨時に会議を開催する。 (2) 総会等決議に基づく要望 消防防災体制の一層の充実強化を図り、消防を取り巻く諸情勢に即応した消防行政を積極的に推進するため、強力に推進すべき施策について総会、役員会等で決議し、総務大臣等に対して全国消防長の総意をもって要望する。 (3) その他 |
2 震災等大規模災害対策に関すること |
(1) 震災等大規模災害対策の推進(重点) 甚大な被害を及ぼす地震、噴火、風水害、雪害等の自然災害対策及び武力攻撃災害等に関する諸課題について、国の検討会等の動向を踏まえ、事業推進委員会等を主体として必要に応じて検討し対応する。 (2) その他 |
3 消防情報の交換に関すること |
(1) 会報等の発行 全国消防長会の事業推進及び措置対応のほか、国の動向、各会員情報、消防庁等からの通知、資料等を「会報」・「週間情報」に掲載・発行し、会員、関係機関等に配布する。 (2) 情報管理システムを活用した情報の共有化等 情報管理システムの各種機能を活用し、全国消防長会事務局と各消防本部相互間における一層の情報の共有化及び双方向化を推進し、更なる機能充実を図る。 (3) その他 |
4 消防制度の改善等に関すること |
(1) 消防の広域化への対応(重点) ア 消防の広域化 広域化の検討から実現までに一定の期間を要していることを踏まえ、「市町村の消防の広域化に関する基本指針」に定める消防の広域化の推進期限に向け、必要な情報を適時・適切に提供するとともに、必要に応じて消防庁等、関係機関へ要望する。 イ 消防業務の柔軟な連携・協力 各地域の多様な消防業務のニーズに的確に対応するため、消防指令業務など業務分野ごとの性質に応じた柔軟な連携・協力の推進が図れるよう消防庁の動向を踏まえ、必要に応じて検討し対応する。 (2) 小規模消防本部が抱える課題への対応 情報管理システムに導入した電子会議室機能を活用し、消防本部間での奏功事例等を情報交換及び情報共有すること等により、消防本部が抱える課題解決を図る。 (3)その他 |
5 消防財政の確立に関すること |
(1)消防職員の確保、消防防災施設・設備の整備及び緊急消防援助隊の充実・強化等に係る消防財源の確保 消防力の充実強化等を促進するため、消防財政に関する調査研究を行い、消防施設等の整備に要する国庫補助金、地方交付税の確保及び地方債制度の充実等について、財政委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (2) 国の予算概算要求及び消防財源の確保に係る要望 (1)の検討結果等に基づき、消防が必要とする財政措置について、平成30年度国の予算概算要求に係る要望(6月中旬予定)及び消防財源の確保に係る要望(11月上旬予定)を、総務大臣等に対して実施する。 (3) その他 |
6 消防職員の確保及び消防装備等の充実のための取組み強化に関すること |
(1) 消防・救急需要に的確に対応した消防職員の確保及び消防装備等の充実(重点) 消防・救急需要に的確に対応し、消防職員の確保や消防装備等の充実を実現するため、消防庁等と連携しながらその取組みを強化するとともに、支部総会等の機会を捉えその機運を醸成するほか、消防力の充実強化のための取組みについて事業推進委員会等を主体として必要に応じて検討し対応する。 (2) その他 |
7 消防職員の教養及び処遇に関すること |
(1) 消防職員の処遇改善(重点) 消防事務を円滑に運営するため、消防職員委員会の充実を図るとともに、消防組織制度及び消防職員の人事、服制等に関する諸課題について、総務委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (2) その他 |
8 消防機械及び技術の総合的研究に関すること |
(1) 消防救急無線の広域化・共同化及び消防指令業務の共同運用への対応(重点) 消防の広域化にあわせ、消防救急無線の広域化・共同化及び消防指令業務の共同運用、消防救急無線のデジタル運用に係る諸課題、その他消防防災分野におけるICT(情報通信技術)やG空間情報(地理空間情報)の利活用の推進について、消防庁の動向を踏まえながら、技術委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (2) 消防機械器具、消防隊員の装備品等に関する検討 消防機械器具及び消防隊員の装備品等に関する性能、機能等の諸問題について、技術委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (3) その他 |
9 予防業務の推進に関すること |
(1) 防火対象物等の防火・防災安全対策の推進(重点) 防火対象物等の防火・防災安全対策について、消防庁の動向を踏まえながら、予防委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 ア 住宅防火安全対策の推進 住宅火災による被害の低減のため、住宅用火災警報器の設置・維持管理対策及びたばこ火災防止キャンペーンの実施並びに防炎品の普及促進等、住宅防火安全対策について総合的に推進する。 イ 防火対象物等の防火安全対策の検討及び防災管理能力の向上 消防法施行令等が改正されたことに伴い消防用設備等が新たに設置義務となる雑居ビル、小規模な社会福祉施設、病院・診療所等及びホテル・旅館等への是正指導や、大規模・高層建築物等における防火・防災安全対策、さらに、国が検討を進める「民泊サービス提供施設」に対する必要な措置等について、国の動向を注視しながら、必要に応じて検討し対応する。 ウ 防火対象物の違反処理の推進 「違反是正推進連絡会」における各支部・都府県及び道地区各協議会単位での情報交換や、違反是正事例発表会及び違反是正事例研究会における違反是正に関する各種事例を共有することにより、違反処理技術の向上を図るなど、各消防本部における違反処理の推進を図る。 (2) 火災調査体制の充実・強化 火災調査体制の充実・強化方策等について、予防委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (3) その他 |
10 警防・救助技術の充実に関すること |
(1) 安全管理対策の更なる推進(重点) 安全管理に対する取り組みは、事業推進委員会及び各消防本部において推進されているが、災害現場や訓練時等における死傷等の事故が依然として絶えないことから、更なる安全管理対策を推進する。 (2) 消防広域応援体制の充実・強化(重点) 緊急消防援助隊の更なる充実強化方策及び消防防災施設・設備整備のあり方等について、消防庁の動向を踏まえながら、警防防災委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (3) 消防・救助技術の高度化 NBC災害対策をはじめとする消防・救助技術の高度化について、消防庁の動向を踏まえながら、警防防災委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (4) 原子力災害に係る消防活動の検討 原子力災害発生時における消防活動のあり方、隊員の安全確保等について、消防庁の動向を踏まえながら、原子力災害対策消防特別委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (5) その他 |
11 救急業務の推進に関すること |
(1) 救急搬送体制の強化、救急業務高度化への対応及び市民等への応急手当の普及促進(重点) 救急業務の推進のため、消防庁の動向を踏まえながら、救急委員会を主体として必要に応じて以下のことについて検討し対応する。 ア 救急搬送体制の強化について 大規模災害時を含めたMC体制の充実・強化、病院前救護における緊急度判定の実用化、感染症患者への対応等 イ 救急業務高度化への対応について 救急救命士の処置範囲拡大、ICT技術を活用した救急活動への対応等 ウ 応急手当普及促進方策について (2) 救急隊員等の教育体制の充実強化について 救急隊員等の教育体制の充実強化について、消防庁の動向を踏まえながら、救急委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (3) 救急車適正利用の推進について ア 救急車適正利用の普及・啓発について 近年の救急出動件数の増加を踏まえ、救急車の適正利用について、全国的な普及・啓発が必要であることから、救急委員会を主体として、PRポスターを製作し、全国の消防本部へ頒布する。 イ 転院搬送における救急車の適正利用及び救急安心センター事業(#7119)の普及促進について 救急車適正利用等について、消防庁の動向を踏まえながら、救急委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (4) その他 |
12 危険物業務の推進に関すること |
(1) 危険物施設の事故防止対策の推進(重点) 危険物施設における事故防止対策を推進するため、危険物等事故防止対策情報連絡会で示された実施要領に基づき、保安教育の充実による人材育成・技術の伝承、リスクに対する適時・適切な取組、企業全体の安全確保に向けた体制作り、地震・津波対策について、消防庁等の動向を踏まえながら、危険物委員会を主体として必要に応じて検討し対応する。 (2) その他 |
13 消防防災分野における女性の活躍推進に関すること |
(1) 女性の活躍推進(重点) 女性消防吏員の増加及び職域拡大、勤務条件の改善、施設整備等、女性の活躍をソフト・ハード両面から支援する方策について事業推進委員会等を主体として必要に応じて検討し対応する。 (2) その他 |
14 消防職員の研修の実施に関すること |
(1) 全国消防長会が主催する研修会 ア 消防長研修会 会員を対象に、消防の当面する諸問題、消防行政の動向等を内容とする研修会を開催する。 イ 総務関係実務研修会 各消防本部の総務又は経理部門を担当する職員を対象に、職員の勤務制度及び処遇をめぐる諸問題等に関する研修会を開催する。 ウ 消防財政実務研修会 各消防本部の総務又は経理部門を担当する職員を対象に、消防財政制度に関する研修会を開催する。 エ 法制執務研修会 各消防本部の渉外等を担当する職員を対象に、本部内のリスク管理やコンプライアンスに関する研修会を開催する。 オ 広報事務担当者研修会 各消防本部の広報等を担当する職員を対象に、広報活動に関する研修会を開催する。 (2) 消防関係機関が主催する研修会等 研修会に関する要望等を取りまとめ、主催する消防関係機関との連絡・調整等を行う。 (3) その他 |
15 消防職員並びに消防上特に功労のあった者及び協力した者に対する表彰弔慰に関すること |
(1) 全国消防職員意見発表会 消防業務に対する提言や取り組むべき課題等について、各支部から選抜された消防職員による意見発表会を開催し、成績が優秀であった消防職員を表彰する。 (2) 会員に対する表彰 消防上特に功労のあった会員を消防特別功労表彰及び消防行政功労表彰として表彰する。 (3) 会員以外の者に対する表彰 水火災その他の災害現場において顕著な功労のあった者及び永年にわたり勤務し、功労のあった消防職員を表彰する。 (4) その他 |
16 行政相談に関すること |
(1) 各会員から相談のあった消防行政を取り巻く訴訟事件、法的処理についての事例照会等について、顧問弁護士による対応等を行い、会員の利便性を図る。 (2) その他 |
17 国際消防機関との連携強化に関すること |
(1) アジア消防長協会(イフカ)との連絡・協調 イフカが行う各種事業の円滑な事務運営並びに事業推進に係る支援を行い、相互の発展に努める。 (2) 第30回イフカ総会に係る事務推進 平成30年に東京都で開催する第30回イフカ総会に係る各種業務に協力する。 (3) その他 |
18 行政支援に関すること |
(1) 一般財団法人全国消防協会が行う、消防実務講習会の開催、消防機器の改良及び開発並びに消防に関する論文の募集、全国消防救助技術大会等の実施、「春・秋の火災予防運動週間」における防火ポスターの企画、機関誌「ほのお」の編さん等を支援する。 (2) その他 |
19 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会等に関すること |
(1) 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会及びその前年に開催されるラグビーワールドカップ2019における万全な消防特別警戒体制の確立等について、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会等特別委員会を主体として検討し対応する。 (2) その他 |
20 自治体消防制度70周年等に関すること |
(1) 自治体消防制度70周年記念事業への支援 消防庁が行う各種事業への支援を行う。 (2) 本会発足70周年記念事業への取組 記念誌「全国消防長会70年のあゆみ」の編集を行うとともに、本会に設置された全国消防長会70周年記念事業検討委員会等において各種記念事業の検討を行う。 (3) その他 |
トップページ>今年度の事業計画